油すまし、河童のほかにも栖本町には有象無象のマイナー妖怪の言い伝えがひしめいている。
のっぺらぼうは全国的に有名な妖怪だが、栖本町には言い伝えという形では残っていない。しかし一昔前までは、同町の子供たちの間で「夜、××にのっぺらぼうが出る」などと都市伝説的な扱いを受けていたようだ。
山際どんはその名の通り山の際に住むという妖怪で、夕暮れ時に近くを通る者に袖を引くなどのいたずらをするそうだ。先述の油すましには「墓」と呼ばれる史跡があるが(図鑑2参照)山際どんにもそれによく似た地蔵が建てられており、民俗学的に何らかの関連性を思わせる。
どくんどさまとは、地蔵の一種「土空菩薩」の愛称として同町で使われている言葉である(似た言葉に「虚空菩薩」の愛称「こくんどさま」というものもある)。いたるところにある土空菩薩の祠のうちひとつが、同町の子供たちの間でいつの間にか「中に石を投げてくるオバケが隠れている祠」と噂され、都市伝説化したという経緯があるようである。
白狐は同町山中にある「小ヶ倉観音」の使いとして多くの言い伝えが残っている。また、深い自然に囲まれた同町の山々には狐も生息しているが、中には毛並みの白いものもいるようで、夜、白い狐に遭遇したことのある某住民は「はっとするほど真っ白で闇夜に浮かび上がるようだった」と語っていた。
綿はんげは樹齢数百年のアコウの大樹に住むという妖怪。これもまた「夜、木の下を通るものに飛びついてくる」という触れ込みでかつての子供たちを大いに怖がらせたようだ。またこのアコウの大木の近くには当時、綿花を扱う工場があったらしく、それが綿はんげという珍妙な妖怪を生み出した大きな一因となっているのかもしれない。 |