図鑑1 天草の妖怪

天草に言い伝えが残る妖怪を、油すましの故郷「栖本町」を中心に紹介




油すまし

 天草市栖本町の山中、「草積(くさづみ)峠」という場所に出たと伝えられている妖怪。
 老婆が孫を連れて峠を歩いているとき、孫に「ここには昔、油ビンを下げた化け物が出たらしいよ」などと言っておどかそうとしたところ、物陰から「今も出るぞ〜〜」という声とともに現れたと言われる。

 一般的に、みのを着た老人の姿というイメージが定着しており、かつては「妖怪大戦争」という映画に日本妖怪のリーダー役で登場したこともある等、知名度が高い。



(右イラストは、油すましをモチーフにしたキャラクター「どんた」(上)と、そのおじいちゃんとおばあちゃん。)




河童

 栖本町に伝承の残る妖怪の中で、油すましとともに全国区で有名なのがこの河童。
 あまりにポピュラーなため、栖本町ならではの妖怪というイメージはきわめて薄いが、同町には河童の言い伝えが無数に残っており、その中には「河童のガワッポ」等、固有名詞が登場する話もいくつかある。出てくる河童も老若男女に富み、当時の人々の河童に対する思いの強さがうかがえる。

 また、かつて「河童サミット」という全国規模のイベントが、同町を会場に行なわれたこともあるという。

(右イラストは河童をモチーフにした、どんたのライバルという設定のキャラクター「洪水丸」)


のっぺらぼう
山際(やまぎわ)どん
どくんどさま
白狐
綿(わた)はんげ

(以上、右イラストのキャラクターの左端から順に該当)

 油すまし、河童のほかにも栖本町には有象無象のマイナー妖怪の言い伝えがひしめいている。
 のっぺらぼうは全国的に有名な妖怪だが、栖本町には言い伝えという形では残っていない。しかし一昔前までは、同町の子供たちの間で「夜、××にのっぺらぼうが出る」などと都市伝説的な扱いを受けていたようだ。
 山際どんはその名の通り山の際に住むという妖怪で、夕暮れ時に近くを通る者に袖を引くなどのいたずらをするそうだ。先述の油すましには「墓」と呼ばれる史跡があるが(図鑑2参照)山際どんにもそれによく似た地蔵が建てられており、民俗学的に何らかの関連性を思わせる。
 どくんどさまとは、地蔵の一種「土空菩薩」の愛称として同町で使われている言葉である(似た言葉に「虚空菩薩」の愛称「こくんどさま」というものもある)。いたるところにある土空菩薩の祠のうちひとつが、同町の子供たちの間でいつの間にか「中に石を投げてくるオバケが隠れている祠」と噂され、都市伝説化したという経緯があるようである。
 白狐は同町山中にある「小ヶ倉観音」の使いとして多くの言い伝えが残っている。また、深い自然に囲まれた同町の山々には狐も生息しているが、中には毛並みの白いものもいるようで、夜、白い狐に遭遇したことのある某住民は「はっとするほど真っ白で闇夜に浮かび上がるようだった」と語っていた。
 綿はんげは樹齢数百年のアコウの大樹に住むという妖怪。これもまた「夜、木の下を通るものに飛びついてくる」という触れ込みでかつての子供たちを大いに怖がらせたようだ。またこのアコウの大木の近くには当時、綿花を扱う工場があったらしく、それが綿はんげという珍妙な妖怪を生み出した大きな一因となっているのかもしれない。


大桜(うざくら)どん

 大桜と書いて「うざくら」。栖本の妖怪伝承の中では比較的古いものであるこの妖怪だが、奇妙な呼び方は当時の訛りによるものだろうか。
 その名の通り桜の精のように認識されていた妖怪だが、なぜか人々の病を治す力があるという信仰を受けていたらしく、かつて同町のある地方で「疱瘡」という病気が流行ったときは、病が治るようにという祈りを込めて人々が大桜どんを祀り、崇めたらしい。


(右イラストは大桜どんをモチーフにしたキャラクター、「ヨザクラ男爵」)


ひょっとこ
しばがき
猫又
山童(やまわろ)
大百足(おおむかで)

(以上、右イラストの左端から順に該当)

 栖本町に限らず、自然豊かな天草は妖怪伝承の宝庫のようである。
 おなじみひょっとこ。妖怪かどうかは意見が分かれるところだろうが、個性的でユニークな姿をしている昔ながらのキャラクター、という点には変わりはない。栖本町ではひょっとこの面をかぶりコミカルに舞う「ひょっとこ踊り」が盛んで、老若男女合わせて数十名の「ひょっとこ軍団」なる大規模なダンス部隊が結成されている。
 しばがきはこれぞローカル妖怪とも言うべき存在。暗がりから石を投げてくると伝えられており、偶然にも「どくんどさま」の性質にそっくり。
 猫又は全国区で有名な化け猫妖怪である。人をだますという言い伝えから、一説には人を食べてしまうという過激な話まであり、天草各地に豊富な伝承が残っているようだ。
 山童は、妖怪関連の書籍の中では「河童が秋になり山に上がり、体色などの外見的性質が変わったもの」であると解説されている面白い妖怪である。やはり河童の言い伝えが多いことと関係があるのだろうか。
 大百足は、山の外周を己の体でぐるりと巻くようにして山を陣取っていたと伝えられる文字通りの大物。気性の激しさの方も相当なものだったが、悪さが過ぎてついには弓矢の名手に退治されたという、壮大な物語の登場キャラクターとして後世に伝えられている。



おまけ そのほかの妖怪たち



アズキハカリ&アズキトギ

 栖本町には伝承は残っていないが、全国的に有名で、とくに水木しげる先生の作中では「油すましの遠い親戚」という位置づけでたびたび登場する。

 そのため、「油すましどんの墓」で、油すましとされる中央の像の両脇に鎮座している二体の石像との関連を想像してしまう。

(右イラストは、どんたの友達という設定のアズキハカリくん(左)とアズキトギくん)


座敷わらし

 座敷わらしも全国的に有名な妖怪だが、栖本町には伝承はない。
 日本には、座敷わらしが出るといわれている旅館や神社がいくつかあるらしく、そういう場所には訪れた人、泊まった人から「おかげで幸せになりました」という手紙が殺到するという。

 たくさんの、しかも遠く離れた人間を幸せにする・・・本当だとしたら、人間なんて足元にも及ばないほどのエネルギーを持っていることになる。

(右イラストは、座敷わらしをモチーフにしたキャラクター「タタミちゃん」)


千年ウナギ校長

 クジラのように大きく、言葉を話すウナギの妖怪
 どんたたちが通う妖怪小学校の校長先生、という設定のキャラクターで、元ネタはない。
 一応、設定では、妖怪たちの住む世界を自由に泳ぎまわり、田んぼや水溜りなど「水面」でさえあれば、どんなに浅く小さいものであってもそこから人間世界に自由に顔を出せる能力の持ち主ということになっている。妖怪の子供たちを背に乗せ、妖怪小学校に送り迎えする。
 
 栖本町の川ではウナギが獲れ、夏祭りの時には「ウナギのつかみ取り」なるイベントが人気を集めている。同町にもさすがに千歳のウナギはいないが、数年から場合によっては十年以上生きているウナギは生息しているとのこと。
 



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