そして、お地蔵さんから視点をぐーっと左に移すと、かつては付近の住民たちに用いられていたという井戸がある。実はこの井戸が曲者。この井戸の水はとてもきれいでおいしいと評判だったのだが、どうも利用した者からおかしな話を聞く。それは、辺りが見えにくくなる夕暮れの頃にこの井戸に水を汲みに来ると、誰もいないのに服を引っ張られたり、足を触られたりすることがあるというもの。人々はそれを「やまぎわどん」と呼び、たいそう不思議がったが、危険はないのでそれ以上気にすることはなかった。かくして井戸の名水は長い間人々に愛され続けたが、やがて水道が普及し、水を汲みに来る人が無くなると、井戸は静かにその役目を終え、いつしかやまぎわどんも現れなくなったという。 |